対象プログラム | 電子散乱シミュレーション |
アプリケーション名 | RMT |
チューニング方法 | 負荷バランスとMPI通信の最適化、伝搬関数コードの改良 |
成果 | 8192コアの場合に30%高速化し、伝搬関数コードの改良で80%高速化 |
HECToR dCSE Teaによるシュレディンガー方程式コードRMTの性能改善
Kenneth Taylor, Jonathan Parker, Queen's University Belfast (QUB)
HECToR CSE Team, Numerical Algorithms Group Ltd (nAG)
英国の国立学術スーパーコンピューティング設備であるHECToR 向けのnAGの計算科学技術(CSE)サポートサービスと共に、QUBのHPC専門家は、時間依存シュレディンガー方程式に対するRMT法(R-Matrix incorporating time-dependence)の高並列化実装が、数値的に安定で高い効率を持つことを実証しました。RMT法は高強度短時間レーザーパルス中の多電子原子・分子系の新しい解法です。
一般的なR-行列法は多電子原子や分子とレーザーとの相互作用のモデル化に成功していますが、それは静的な場合に限られています。HELIUMは15年に渡り大規模並列マシン上で頻繁に利用されており、時間依存の原子-レーザー相互作用を良く記述しますが、2電子までに限られています。RMT法はこれら両方の制限を解除できます。RMTコードの性能と負荷バランスに関する最適化により、8192コアの場合に30%の高速化を達成しました。
dCSE プロジェクトの成功について,QUBの応用数理・理論物理学のKenneth Taylor教授は次のように述べています。「dCSEのソフト開発はRMTコードの成功を下支えしました。RMTは、HELIUMの有限差分かつ時間発展法の高い精度と効率を持つ大規模で複雑な並列コードです。RMTはこれまで不可能だったレベルの多電子系をレーザーの相互作用を扱うことが出来ます。HELIUMはに電子系のレーザー相互作用を計算可能なHPCコードで、過去20年以上に渡りベルファストにおいて開発されてきました。」
「時間に依存しないR-行列コード(RMATRIX)も、幾世代にも渡りベルファストで開発されてきたものであり、HELIUMとRMATRIXという二つのコードの結合には、その専門領域と特殊な数値計算法および並列化実装法を深く知る研究者らにより、数年かけて実施されました。」
「RMTは現在、非経験的理論計算へ適用され、ネオン原子の準外殻からの光放出における最近のアト秒の遅延計測実験の相補的解析、およびヘリウム原子の高次高調波発生の計算に適用されました。さらにRMTの応用領域には、複雑な分子中の内殻励起とdecayや、自由電子X線レーザーによるXUV周波数での高強度の原子レーザー相互作用も含まれます。これらの領域での予備的な研究は小規模サーバから、HECToRの大規模シミュレーションの利用へ移行しています。」
HECToR HECToR はResearch Councils を代行する EPSRC により管理されており、英国学術界の科学と工学をサポートする任務を負っています。エジンバラ大学にある Cray XT スーパーコンピュータはUoE HPCx 社によって管理されています。 CSE サポートサービスはnAG 社によって提供されており、高度なスーパーコンピュータの効率的な活用のために、ユーザは確実に適切なHPC専門家にコンタクトできます。CSEサポートサービスの重要な特徴は分散型CSE(dCSE)プログラムです。これは簡潔なピアレビューを経てユーザからの提案に応える、特定のコードのパフォーマンスとスケーラビリティに対処するプロジェクトです。dCSE プログラムは、伝統的なHPCユーザアプリケーションサポートとnAG によるトレーニングで補われる、約 50 の集中的プロジェクトから成り立っています。 これまでに完了した dCSE プロジェクトは、CSEの尽力により可能なコスト削減と新しい科学の優れた適用例をもたらしました。ここで報告されているRMTプロジェクトは成功を収めたパフォーマンス改善であり、新たなサクセスストーリーとなっています。 |
プロジェクトの背景
このdCSEプロジェクトの目的は、1万コアまでスケールするようにMPI通信を最適化すると同時に、効率的な負荷バランスを達成するRMTモデルを開発し改善を繰り替えすことです。
さらに、高次高調波発生プロセスの計算のための新たなRMTコードも開発しテストしました。
RMTの目標の一つは、他の方法では不可能なこととして、実験の進行を信頼度と共に理論的解析を可能にすることです。
QUBの応用数理・理論物理学のKenneth Taylor教授がこのプロジェクトの調査主担当です。QUBのJonathan ParkerはnAG CSEチームと密接な連携を取りながら、12人月でプロジェクトを遂行しました。
プロジェクトの結果
RMTコードとそのアルゴリズムの最適化を行い、HECToR上で代表ケースにおいて、負荷バランスとMPI通信を改善し、30%の高速化を達成しました。
またRMTコードの高次高調波発生プロセスに対して、追加のコード開発を実施しました。
各HELIUMとRMTコードは個別に検証され、高次高調波発生プロセスのエネルギースペクトル計算における双極子モーメントと加速度の結果は、9桁のオーダーに渡り一致していました。さらに、伝搬関数の設計を改良した結果、80%高速化されました。
詳細なテクニカルレポートは以下で参照いただけます。
http://www.hector.ac.uk/cse/distributedcse/reports/
さらに詳しくお知りになりたい場合は、日本NAG株式会社 コンサルティンググループご相談窓口 https://www.nag-j.co.jp/nagconsul/toiawase.htm (あるいはメール:consul@nag-j.co.jp)までお問い合わせください。