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二次近似による高効率な導関数フリー最適化: nAGライブラリのBOBYQAアルゴリズム

二次近似と信頼領域法の融合

革新的な導関数不要最適化アルゴリズム

nAGライブラリとMATLAB®用nAGツールボックスのMark23で導入されたBOBYQA (Bound Optimization BY Quadratic Approximation) アルゴリズムは、最適化分野に革新をもたらしました。ケンブリッジ大学のMike Powell教授によって開発されたこのアルゴリズムは、従来の最適化手法に比べて大幅な性能向上を実現しています。

BOBYQAの主要な特徴と利点:

  • 導関数不要の最適化: 目的関数の勾配や二次導関数を必要としないため、解析的な導関数が得られない複雑な問題に適用可能。
  • 高度な二次近似モデル: 各反復で目的関数の二次近似Qを構築し、効率的な探索を実現。
  • 信頼領域法の採用: 二次モデルの信頼性に基づいて探索範囲を動的に調整し、収束を加速。
  • 境界制約への対応: 変数の上下限制約を考慮した最適化が可能。
  • 大規模問題への効率性: 特殊な更新手法により、高次元の問題でも計算効率を維持。
  • 数値的安定性: RESCUEメカニズムにより、計算精度の低下を防止。

アルゴリズムの核心部分:

  1. 二次近似モデルの構築:
    BOBYQAは各反復で、m個の補間点を用いて目的関数Fの二次近似Qを構築します。典型的にはm = 2n + 1 (nは変数の数) を使用し、これにより関数評価回数を大幅に削減します。
  2. 信頼領域ステップの計算:
    現在の点xkから、二次モデルQkに基づいて最適なステップdkを計算します。このステップは信頼領域半径Δkの制約 ||dk||Δk を満たす必要があります。
  3. モデル更新の効率化:
    新しい点での関数値が得られた後、二次モデルを効率的に更新します。この更新は特に大規模問題で計算コストを大幅に削減します。
  4. RESCUEメカニズム:
    数値計算の精度が低下した場合、RESCUEと呼ばれる特殊な手続きが起動され、補間点の再配置により精度を回復します。

実用例:球面上の点配置最適化

BOBYQAの効率性を示す具体例として、50点を単位球面上に最適配置する問題を考えます。この問題は、各点間の最小距離を最大化することで解くことができます。

問題設定:

  • 目的関数: F(x)=min
  • 制約条件: ||p_i|| = 1 for all i (球面上の点)
  • 変数の数: n = 3 × 50 = 150 (各点の3次元座標)

最適化結果:

  • BOBYQAによる解法: 4,633回の関数評価で最適解に到達
  • 比較:nAGのNelder-Mead単体法ソルバーは16,757回の評価を要する

この結果は、BOBYQAが従来の方法と比較して約3.6倍の効率を達成したことを示しています。特に、高次元の問題でこの性能差が顕著になります。

テスト環境:

  • コンパイラ: GCC 4.5.2
  • OS: Fedora 10
  • プロセッサ: 4基の2.00GHz Intel® Xeon® E5405デュアルコア
  • メモリ: 8GB RAM

技術的詳細

1. 二次近似モデルの構築:

BOBYQAは各反復kで、次の形式の二次モデルQkを構築します:

Q_k(x) = c + g^T (x - x_k) + \frac{1}{2} (x - x_k)^T H (x - x_k)

ここで、c はスカラー、g は勾配ベクトル、H は対称行列です。これらのパラメータは、m個の補間点での関数値を用いて決定されます。

2. 信頼領域サブ問題の解法:

各反復で、以下の問題を解きます:

\begin{array}{ll} \text{minimize} & Q_k(x_k + d) \\ \text{subject to} & ||d|| \leq \Delta_k \\ & l \leq x_k + d \leq u \end{array}

ここで、\Delta_kは信頼領域半径、l と u は変数の下限と上限です。この問題は切り取り共役勾配法(Truncated Conjugate Gradient method)を用いて効率的に解かれます。

3. モデル更新の数学的基礎:

新しい点x_{new}が受け入れられた後、二次モデルは以下の条件を満たすように更新されます:

Q_{k+1}(y_j) = F(y_j) \quad \text{for } j = 1, ..., m

ここで、\{y_j\}はm個の補間点集合です。この更新は、ラグランジュ基底関数を用いて効率的に行われます。

4. RESCUEメカニズムの詳細:

RESCUEは、補間行列の条件数が閾値を超えた場合に起動されます。このメカニズムは以下のステップを実行します:

  1. 現在の補間点集合から最も悪条件な点を特定
  2. 新しい補間点を計算し、悪条件な点と置換
  3. 二次モデルを再構築

これにより、数値的安定性を維持しつつ、モデルの精度を回復します。

結論

nAGのBOBYQAアルゴリズムは、高度な数学的基礎に基づく革新的な最適化手法です。導関数を必要とせず、効率的な二次近似と信頼領域法を組み合わせることで、幅広い最適化問題に対して高い性能を発揮します。特に大規模問題や複雑な目的関数を持つ問題に対して、BOBYQAは従来の方法を大きく上回る効率を示しています。

この高度なアルゴリズムをnAGライブラリを通じて利用できることは、科学技術計算や工学設計の分野に大きな価値をもたらします。BOBYQAの採用により、複雑な最適化問題をより迅速かつ正確に解決することが可能となり、研究開発のスピードアップや設計プロセスの効率化に貢献することが期待されます。

参考文献

Powell, M.J.D. (2009). "The BOBYQA algorithm for bound constrained optimization without derivatives", Report DAMTP 2009/NA06, University of Cambridge.

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BOBYQAアルゴリズム(e04jcc)の技術仕様

この記事で紹介されているBOBYQAアルゴリズムを実装したnAGルーチン(e04jcc)の詳細な技術仕様、使用方法、およびパラメータ設定について説明しています。BOBYQAは依然として有用な手法であり、特定の問題に対して効果的な解決策を提供します。

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