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チューニングレポート<要約>:時間依存R行列法コードRMTによる高調波生成計算

*ここに掲載するのは、クィーンズ大学ベルファーストのJonathan S. Parker博士によるHECToRレポート「RMT for High Harmonic Generation, Jonathan S Parker, April 2, 2012.」を要約したものです。

[2017年10月掲載]


背景

RMT法(時間依存R行列法)は、高強度短パルスレーザー下の多電子原子分子系の時間依存シュレディンガー方程式(TDSE)を解く、新しい非経験的な手法です。近年様々な時間依存R行列法が紹介されていますが[1,2,3,4,5,6]、RMT法は数ケタ効率的な方法です。その主な理由は、原子のコアから離れた場所に在る電子波動関数に対する有限差分法(FD)によるモデル化です。RMTは、外側領域のFDモデルを内側領域の電子に用いる古典的なB-スプラインのR行列基底へ接続します[7]。基底関数系を空間的に調整されたFDモデルと接続するのは困難な問題を生じます。これまでは、時間発展プロパゲータのユニタリティの維持がこの分野の発展における障害となっていました。RMTはNikolopoulos,Parker,Taylorの論文[8]により最初に発表された手法を基礎にしています。

この報告では、高強度レーザーパルスと相互作用する原子により散乱された、光のスペクトルを計算する新しいRMTコードの実装とテストについて議論します。十分な強度のレーザー場において、原子はレーザーの周波数だけでなく、レーザー周波数の奇数倍でも入射光を散乱させます。このプロセスを以降、高調波発生(High Harmonic Generation, HHG)と参照することとします。HHGプロセスにおける光散乱スペクトルは、外部光源(レーザーパルス)による加速の時間依存期待値のフーリエ変換から直接得ることが可能です。このプロジェクトの大半は、これらの期待値を計算する新しいコードを開発することと、その正確性を評価するというより困難な問題に焦点を当てています。

高調波スペクトルは、原子分子の電子構造に関して豊富な情報を含み、時には前例のない空間と時間の解像度を持つ場合があります。インペリアル・カレッジ・ロンドン、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、およびCLFの実験研究グループは、高分子の電子構造を探るために高調波スペクトルに含まれる情報を用いました[13]。インペリアルカレッジのグループもまた、分子内におけるアト秒スケールの動的原子核干渉効果の研究にPACER法[14]を用いた最初の研究を行いました[15]。

高調波発生の研究には様々な手法が有りますが、RMTが特に適している理由は、イオン化に際して生じた残イオンの複数の終状態を自然にモデル化することに在ります。我々の知る限りにおいて、HELIUM以外に高精度な時間依存解を構成するコードは存在しません。さらに、単一アクティブ電子近似を超える最近のモデル開発の試みによれば、多電子原子内のHHG放射レートの決定においては複数の電子のダイナミクスが重要な役割を果たすことが強く示唆されています[16]。しかしながら、このようなモデルでも、HHG効率の量的記述には十分ではありません。将来の実験研究には、希ガス原子からのHHGの正確な量的記述が必要です。これが高調波プロセスを記述可能なコードをRMTコードへ実装するという目的の背景です。

特に分子内の高調波発生についてはインペリアル・カレッジ・ロンドン等で大いに興味を持たれており、多電子分子内のプロセスをRMTで記述することが最終的な目標とされていますが、最初にやらなければならないことは、多電子原子内でのRMT計算を実装することです。これは、HELIUMコードが原子に対して適切なコード比較機能を提供するためです。

この5年間に渡り、レーザー技術での特筆すべき進展があり、前例のない時間解像度での物質とレーザーの相互作用に関する実験研究が可能になりました。現在は、数サイクルパルスの波長800nmの高強度Ti:Sapphireレーザー光や、真空紫外線(VUV)の250アト秒パルスを用いた実験が可能です。特にアト秒パルスの生成は、超高速電子プロセスの研究を可能にしました。最近のランドマークとされる固体内におけるアト秒分光測定[9]では、この超高速技術が、エレクトロニクスの理論的極限速度限界で起こる固体状態のプロセスを調べることが出来ることを実証しました。アト秒パルスは、原子内の電子トンネル効果 [10]や、内核電子のオージェ崩壊の実時間観察を可能にしました。さらに、アト秒パルスは、アルゴン内の単一イオン化のストロボスコープ研究も可能にしました[12]。

RMTの目標は、最近の実験的進歩の理論的分析を、競合する方法では不可能だった信頼性により可能にすることでした。ここには、アト秒スケールのイオン化現象の時間解像研究や、二価イオン化における電子放出タイミングの遅延研究、複雑原子内の内殻励起と崩壊、新しい自由電子X線レーザーによるXUV極限での高強度原子-レーザー相互作用、原子分子内の高調波発生などが挙げられます。

前回のプロジェクトでは、RMTは計算的な安定性を持ち、数千コアまで良好な並列効率を保つことを実証しました。この結果は、内側領域に並列R行列コード、外側領域にHELIUMの涌現差分コードを用いたことによるものです[17,18]。今回の報告ではその大半は、レーザー駆動されたヘリウムの大規模RMT計算の結果と、HELIUMを用いたその数値的な積分計算結果との比較に費やされています。HELIUM[19,20]は、強い場の中に在る2電子原子/イオンに対する時間依存シュレディンガー方程式(TDSE)の高度に統合された解を生成する様設計されています。HELIUMは、15年以上前のオリジナルのCray T3Dが登場して以来、大規模並列マシンで多用されています。RMT のR行列法とHELIUMの有限差分というTDSEを統合する2種の手法は、それほど異なるものではありません。この2つの方法は、主にRMTの内部領域に関する一連の正確な検証において十分な一致を示しています。一連のテストでは、非常に短い(アト秒)高強度UVレーザーパルスおよび光学レーザーパルスによって照射されたヘリウム原子による高調波発生に焦点が当てられています。2つの手法間の結果には良い一致が見られ、これら手法とその実装が基本的には妥当であることが確認されました。


目標と成果

プロジェクトは6人月掛かり、2013年12月に終了しました。

作業項目1 : 高強度場との相互作用により原子から放射された、および高周波へシフトされた光の発生、即ちHHGの計算のための新しいRMTコードの開発とテストを行いました。

RMT方程式のRMT波動関数は、外側と内側領域の波動関数の和です。外側領域波動関数は有限差分グリッド上に記述され、レーザーパルスにより原子から放出された単一電子を表現します。内側領域波動関数はB-スプライン基底で表現されます。内側領域は、R行列法を用いて、固定された半径の球内の多電子原子の量子力学的ダイナミクスを扱います。以下ではこの半径を20原子単位に固定します。
内側領域では全電子(N+1個)が存在するとして、波動関数を場の無い時間に独立なR行列基底の線形結合で表現します。係数は時間に依存し、TDSEに従って時間発展します。ハミルトニアンと双極子演算子がエルミート演算子であることに注意をし、境界上でのみゼロでないブロッホ表面項を考慮してTDSEを組み立てます。外側領域の1電子波動関数は、有限差分(FD)グリッド上の球面調和関数の線形結合で表現します。
計算手順としては、最初に外側領域のTDSEを用います。これは、HELIUMと同じく陽的Arnoldi時間プロパゲータ法[19]で扱います。このような大規模な領域における効率的な時間依存R行列積分コードの開発は、進展が遅れています。これは、高次元偏微分方程式の積分には、計算上の要請として数万コアにわたる並列化が必要になるためです。純粋なR行列形式ではこれは単純なことではありません。

また、HHGに対する2つのRMT計算の比較を行いました。そのうちの一つは、加速度の期待値から、もう一つは双極子の期待値から導くものです。2つのやり方は、9桁以上の質的な一致を見ました。さらに、新しいRMTコードのHECToR上でのスケール性能を、小さな1状態ヘリウム原子に対して、34から1120コアまで用いて示します。ネオンのようなより複雑な原子では、RMTは内側外側共に一桁大きなコア数が必要となります。

作業項目2 : RMTコード用に開発されたHELIUMコードの性能向上と、作業項目3と同様のテストを行いました。HELIUMには一つの領域しか存在しないため、追加のMPI通信もありませんが、双極子や加速度期待値計算に比べて、二電子積分が必要となるためより複雑な計算を要します。双極子期待値と加速度期待値をベースにしたHELIUMのHHG計算は、11桁の良い一致が見られました。

作業項目3 : 新しく開発されたコードの数値的な正しさと正確性を検証しました。レーザー周波数を振って、RMTとHELIUMからの予測値の比較をしました。2つの方法間の良好な一致が示され、これがRMTコードの正確性の信頼性を向上させ、RMT統合パラメータがHELIUMの品質に匹敵する数値積分を生成するように適切に調整されていることが実証されました。

謝辞

このプロジェクトは、NAG Ltd.が運営するHECToRの分散計算科学および工学(CSE)サービスの基に実行されました。英国の国立スーパーコンピューティング・サービスである、HECToR:英国リサーチ・カウンシル・ハイエンド計算サービスは、リサーチ・カウンシルを代行するEPSRCが管理しています。そのミッションは英国学術界の科学および工学の研究支援です。HECToRスーパーコンピューターは、UoE HPCx Ltd.およびNAG Ltd.のCSEサポートサービスにより管理運営されています。

文献

[1] van der Hart HW, Lysaght MA and Burke PG Phys. Rev. A 76 043405 (2007).
[2] van der Hart HW, Lysaght MA and Burke PG Phys. Rev. A 77 065401 (2008).
[3] Guan X, Noble CJ, Zatsarinny O, Bartschat K and Schneider BI Phys. Rev. A 78 053402 (2008).
[4] Lysaght MA, Burke PG and van der Hart HW Phys. Rev. Lett. 101 253001 (2008).
[5] Lysaght MA, van der Hart HW and Burke PG Phys. Rev. A 79 053411 (2009).
[6] Lysaght MA, Burke PG and van der Hart HW Phys. Rev. Lett. 102 193001 (2009).
[7] van der Hart HW and Burke PG (the adaptation); Burke VM, Noble CJ, Plummer M and Burke PG (RMATRIXII/RM95): both to be submitted to Comput Phys Comm.
[8] Nikolopoulos LAA., Parker JS and Taylor KT Phys. Rev. A 78 063420 (2008).
[9] Cavalieri AL et al Nature 449 1029 (2007).
[10] Uiberacker M et al Nature 446 627 (2007).
[11] Drescher M et al Nature 419 803 (2002).
[12] Mauritsson J et al Phys Rev Lett 100 073003 (2008).
[13] Kajumba N et al New J. Phys. 10 025008 (2008).
[14] Baker S et al Science 312 424 (2006).
[15] Baker S et al Phys Rev Lett 101 053901 (2008).
[16] Gordon A et al Phys Rev Lett 96 223902 (2006).
[17] Lysaght MA, Moore LR, Nikolopoulos LAA, Parker JS, van der Hart HW and Taylor KT, ’Ab initio methods for few- and many-electron atomic systems in intense short-pulse laser light’ Quantum Dynamic Imaging: Theoretical and Numerical Methods, editors. A.D. Bandrauk and M. Ivanov (2011).
[18] Moore LR, Lysaght MA, Nikolopoulos LAA, Parker JS, van der Hart HW and Taylor KT, submitted to J. Mod. Opt. (2010)
[19] Smyth ES, Parker JS and Taylor KT Comput Phys Comm 144 1 (1998).
[20] Parker JS, Doherty BJS, Taylor KT et al Phys Rev Lett 96 133001 (2006).
[21] van der Hart HW, private communication.


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